独立行政法人 労働者健康安全機構 千葉産業保健総合支援センター

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ちば産保コラム

  • 病気の治療と働くこと

    講師コラム

    千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学 能川和浩

    最近「両立支援」という言葉をよく聞くようになりました。この両立には、「子育て・介護と仕事の両立」または「病気の治療と仕事の両立」の場合があります。いずれの両立支援も、少子高齢化が進む中で人材の確保・定着や従業員の安心感-生産性の向上につながり、企業にとっても従業員にとってもメリットが大きいものです。今回は、病気の治療と仕事の両立について実際の取り組みをご紹介します。

    事例:胃がんの治療を始めた50歳男性Aさん
    メーカーに勤務しているAさんは、胃の調子が悪く病院で検査したところ、「胃がんステージⅣ (胃から遠くの臓器に転移がある状態)」の診断を受けました。直ちに治療を開始することが必要な状況ですが、まだ子供の小さいAさんは仕事を辞めるわけにはいきません。この日からAさんにとって、「病気の治療」と「働くこと」を「両立」させる生活が始まりました。

    Aさんの治療と仕事を両立させるために、Aさん、産業医、人事担当者で面談を実施しました。主治医からの治療計画書によると、抗がん剤を投与し、転移が消えれば胃全摘手術を実施するという治療計画でした。抗がん剤の投与計画は、初日の点滴の薬剤に加え2 週間毎日抗がん剤を内服し、1週間休薬するという計画で、これを3回繰り返す予定でした。がんの進行のためAさんの体調が悪かったことや、抗がん剤の副作用がどのようにでるかわからなかったので、最初の3回の抗がん剤投与期間については休職し、治療に集中することにしました。3回終わったところで、復職面談を行い、半日勤務からスタートしました。

    抗がん剤治療後、効果を判定したところ、治療が奏功し転移が消えていたことから、手術を実施し、手術後に抗がん剤治療を追加する計画が立てられました。このため、胃全摘手術と抗がん剤治療の1回目が終わるまで約2か月休職することとなりました。

    手術は成功したものの、追加の抗がん剤の副作用が強く、胃の摘出手術をしたためにおこるダンピング症候群(食後におこる体調不良)もおこりました。そのため復職にあたっては、最初は週4日のテレワーク(週1日出社)をメインとすることで、満員電車での通勤負荷を軽減し、自宅で自分のペースで食事が摂れるように配慮をしました。その後、本人の体力は徐々に回復し、食後に体調が悪くならないような食べ方にも慣れてきたことから、徐々に就業の制限を解除し、現在では内服の抗がん剤治療をしながら週1日テレワーク、週4日出社するというリズムでフルタイムの仕事をしています。

    Aさんが治療を始めてから1年の間に① 5か月の休職②副作用や治療計画に合わせた短時間勤務③通勤の負担軽減と家庭で食事を摂るためのテレワークを実施しました。このことにより、Aさんは病気の治療と仕事を両立させることができ、かつ、業務のブランクも最小限に抑えることができました。

    Aさんのように、何らかの疾病を抱えながら働いている労働者は労働人口の約3割を占めると言われています。病気のために、仕事を諦めなければならないということを減らすために、産業保健スタッフと企業担当者が協力して、産業保健活動を推進していくことがますます重要になっています。