「心と体の健康づくり運動」に関する調査研究報告書

1986年および1995年の調査結果比較による評価−

主任研究者 千葉産業保推進センター所 長 荘司榮徳

共同研究者 千葉産業保推進センター相談員 能川浩二

      千葉産業保推進センター相談員 城戸照彦

      千葉産業保推進センター相談員 吉田之好

      千葉産業保推進センター副所長 戸嶋禮助

1 はじめに

 健康づくり運動は、昭和54年中高年労働者を対象にシルバーヘルスプランが提唱され、さらに昭和63年以降全労働者を対象にTHPが推進されてきております。千葉県下においては昭和61年に主要事業所を対象に、健康づくり運動に関する実態調査が行われ、現状、問題点の把握、今後の取り組みに対する提言が行われました。今回、同様の調査を行いその結果について比較検討し、この間の動向を明らかにしたことは今後の健康づくり運動推進に貴重な資料を提供するものと考えられます。

2 対象と方法

 千葉県産業衛生協議会に加盟する事業所を中心に抽出し、その数は昭和6198社中87社(回収率89%)、平成7120社中99社(回収率83%)でした。調査項目は用語に多少相違はありますが概ね同じ質問内容で構成されております。

3 結果

(1)健康づくり運動への認識今回の方がTHPとしてより広く知られていることが分かりました〔78%vs50%;p<0.01〕。(図1)

  

(2)健康づくり運動の推進状況しかし、健康づくり運動の推進状況においては前進していないことが分かりました。(図2) (3)実施している健康チェックの方法定期健診(100%)、成人病健診(84%)、人間ドッグ(60%)の順で、健康測定は、16%でありました。

(図3)

(4)実施している健康増進活動

  健康相談(63%)、健康教育(53%)、保指導(49%)、栄養指導(33%)、の順でした。

(5)健康づくり運動を活性化するための要因

  現在健康づくり運動が活発でないと答えた事業所を対象に活性化のために必要な要因を尋ねたところ、前回より今回の方が推進組織の強化、事業所トップの理解、人事・労務担当者の指導を重視していることが明らかになりました。(図4)

  

(6)メンタルヘルスケアの実施状況

  取り組みの中でも特にメンタルヘルスケアを実施している事業所は増加しております〔60%vs42%;p<0.05〕。(図5)

  

(7)健康づくり運動の効果尺度

  「健康診断成績の向上」が大幅に増加〔26%vs48%〕する一方、「労働災害の減少」は半減〔24%vs12%〕sております。(図6)

  

4 考察

(1) はじめに、今回の調査結果を比較的近い時期に労働省が実施した「労働者健康状況調査報告」(1992年)と比較しますと、全国調査では44%の事業所が健康づくりに取り組んでいると答えています。その取り組み内容は@職場内のスポーツ競技大会の実施(48%)、A職場体操(46%)、B健康相談(35%)の実施率が高く、THPと答えたのは6%に過ぎませんでした。一方、今回の調査結果ではTHPの実施状況は「実施している」は7%、「一部実施している」を加えると32%となり全国レベルより低い値になります。しかし、全国調査には健康相談も加えられており、内容が異なるため一律に比較することは難しく、ちなみに今回の調査では健康相談を実施している事業所は63%で全国水準を大幅に上回っており、千葉県内の健康保持増進活動が全国水準より劣っていると考えるのは困難です。

(2) 健康づくり運動において、適正な評価指標の設定が今後の課題として、前回の報告書のにおいても指摘されていました。昭和63年に労働安全衛生法の一部改正に伴い、定期健康診断の検査項目の充実が図られ、中高年齢労働者においては肝機能異常や高脂血症等の状態を血液検査で数量的に評価することが可能になり、さらに企業によっては自主的に、対象を全従業員に拡大したり、検査項目も糖尿病や風のような代謝性疾患にも対応可能なように増やしております。また、各種がん健診も企画され、その結果として今回の調査結果では、健康づくり運動の評価指標として「健康診断成績の向上」を半数近い事業所が挙げており、前回の2倍近くとなっております。今後さらにライフスタイルの改善やメンタルヘルスにおける各種ストレスチェック等を指標に加えることにより、より総合的な評価が行えるものと考えます。

(3) 結論として、この9年間に健康づくり運動への認識は深まってきましたが、実施状況はメンタルヘルスケアの分野で前進しているものの全体としては進展していないことが分かりました。