千葉県労働者における精神健康度と作業実態との関連に関する調査研究 (平成10年度)
 
 
主任研究者 千葉産業保健総合支援センター 産業保健相談員 吉田 之好
共同研究者 千葉産業保健総合支援センター 所長 荘司 榮徳
産業保健相談員 能川 浩二
大久保靖司
千葉大学医学部衛生学教室 小林 悦子
諏訪園 靖
中沢 哲也
渡辺 美隆
石川  節
大沢 俊雄
1.はじめに

 近年,メンタルヘルスに関する自覚症状を持つ労働者は増加しており,その重要性は増していると考えられ,今後,その対策の一層の推進が期待される状況にあるが,現状の急激な労働環境の変化の下での精神健康度に関する基礎調査研究は多くない。

本研究では,企業従業員を対象として精神健康度の指標である抑うつ症状と労働要因,ライフスタイルとの関連性を1995年と1998年において検討した。

2.対象と方法

 対象は千葉県下にある電機部品製造業従業員2614名(1995年)及び1344名(1998年)である。自記式質問票を用いて年齢及び性別,平均勤務時間,職種,交代勤務の有無及び月平均休日日数,平均睡眠時間,食習慣,飲酒習慣,喫煙習慣及び運動習慣を調査した。

 精神健康度指標としてSDSを用い,48点以上の中等度以上の抑うつ症例をSDS有所見者として多重ロジスティック回帰分析を行った。

 
 

3.結果

 性・年齢階層別対象者数では男性の40歳以上,女性の30歳以上で急激な減少が見られ,対象者数は48.6%と3年間で半減していた。(表1)
 労働要因の変化では,平均的勤務時間8時間未満及び10時間の比率は少なくなっており,8-10時間の比率は増えていた。職種の構成比率に大きな変化は見られなかった。交代勤務者は人数で約2/3となっているが日勤者は人数で約1/3となっており,日勤者の比率は減少していた。月平均休日日数は,男性では月7日以上,女性では月5-6日の比率が減り,月3-4日である比率が増えていた。(図1-3)

 平均睡眠時間に大きな変化はなかった。朝食摂取状況では週5日以上朝食を食べる人の比率は減っており,その分週1-4日朝食を食べると答えた人の比率は増加していた。食習慣は男女ともに大きな変化はなかった。

 
 飲酒回数は週5-6日飲酒している人の比率は減っており,週1-2日飲酒する人の比率は増えていた。1回当たりの飲酒量が日本酒換算2合以上の割合は男女ともやや増えていた。飲酒回数の減少傾向を考えると男性では飲酒回数の減少と飲酒量の増加が特徴的であると考えられた。喫煙習慣は変化がなかった。
 運動頻度は男性では運動をしない人がやや増えていたが,女性では運動をしない人の比率は減っていた。
 
 SDS得点分布は,95年も98年も男性では37点から44点の間に,女性では35点から44点の間にピークを持つなだらかな分布を示したが,98年の分布は高得点側にややずれている。(図4,5)
 SDS有所見率は95年では男女とも年齢階層が高いほど高くなっている。98年では年齢階層による差は認めなかった。(表2)

 
 有所見率と労働要因及びライフスタイルとの関連の検討を多重ロジスティック回帰分析にて行った。職種はダミー変数を用いて各職種の事務職に対するオッズ比を求めた。男性において95年98年に共通して関連が認められたのは朝食摂取状況と飲酒量であり,95年ではそのほかに休日日数及び喫煙量であり,98年は勤務時間及び睡眠時間であった。女性では5%で有意な関連は見られなかった。


 

4.まとめ

 3年間に従業員数は約半数と減少していた。くわえて,休日日数は減少し,勤務時間の変化も見られ,労働条件環境の変化が示唆された。

 SDS有所見率は95年から98年の間に増加してはおらず,95年に見られた年齢階層間の有所見率の有意な差は98年には見られなかった。
 労働要因及びライフスタイルがSDS有所見に与える影響には男性において変化が見られ,休日日数の影響は95年に見られたが,98年には有意ではなった。また,睡眠時間は95年には有意ではなかったが98年には有意な関連を認めた。98年では勤務時間が長いものがSDS有所見となるリスクは低くなっていた。